HOME入口へ坪井の歴史 ≪ 失われたもの (1)復活は難しい植物

失われたもの

 まるで孤島のように取り残されていた坪井。新興住宅地として開拓が進み、得たものと失われたもの。

(1)復活は難しい植物たち

 坪井小学校や中学校のある区画から、高級感のある高層住宅が並ぶ緑が丘が遠く見えていた。だが、そこに至るには、うっそうと茂る森林を迂回するために、曲がりくねった細い畑の中の道をかなり移動しなければならなかった。気の利いた商店街は、その緑が丘か、北習志野に出掛けなければならない。駅の開業が遅れて、不便感が蔓延していたのかも知れない。
 そして、駅開業をきっかけとして着実に新しい街並みが出来上がっていった。ただ、その時の自然を破壊するエネルギーのすさまじさを忘れられない。森の木々はあっという間に切り倒されていった。唸りを上げる大型重機が丘を削り、窪地を埋め、なだらかな土色の荒野に変えてしまった。気づくと、遠いと思われた緑が丘は散歩に適した距離だった。

キンラン(金蘭:ラン科)

 丘陵の林に咲くラン科キンラン属の多年草。春、膝程度の草丈に伸びて、黄緑色の茎先に柔らかい黄色い花を咲かせる。
 比較的最近(1997年)、環境省による絶滅危惧II類(VU)指定を受けた。これには明確な理由がある。この植物は腐葉土がふんわりと堆積するような豊かな自然の中でしか生を繋ぐことができないからだ。人工的な栽培は極めて難しい。
 (キンランは樹木の根と共生する性質のラン菌から炭素供給を受けて生きる。)

 中世に大規模な屋敷があった区画だ。屋敷が倒壊して、人間が住まなくなり、林が発達して、キンランが多く見られるようになるまで、どれだけの時間を要したのだろうか。もはや、ここにキンランが復活することはないだろう。

ジュウニヒトエ(十二単:シソ科)

 やはり、丘陵の林に咲くシソ科キランソウ属の多年草。春、淡くて城に近い紫色の花を静かに咲かせる。
 人工的な栽培ができないことはないだろうが、相当に気難しい面を持つ。山野草として流通しているのは、ほとんどがセイヨウジュウニヒトエという和名をもらった外来の園芸種だ。

 

登録[2010/06/28] - 更新[2010/07/11]

写真 : 上(2000/05/07) キンラン、 下(2002/04/06) ジュウニヒトエ

キンラン(金蘭) ジュウニヒトエ(十二単)